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当院ではアトピー性皮膚炎の治療を積極的に行っています。
アトピー性皮膚炎とは、アレルギーと皮膚の乾燥によって幼少期~学童期に発症する慢性湿疹です。成人しても症状の改善が見られない場合がしばしば見られます。 アトピー性皮膚炎は表皮、なかでも角質の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、様々な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して発症する疾患とされています。 |
近年では、角質内の天然保湿因子の一つである、フィラクグリンというタンパク質を作るDNAに変異があると、皮膚が乾燥しやすくなり、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなるのではないかといわれています。
簡単に言い換えますと、皮膚のかさかさしやすい体質と、アレルギーになりやすい体質により生じる疾患ということができます。その二つは影響しあって、互いに増悪の原因となり、時に悪循環に陥ります。
皮膚が元々乾燥しやすく、バリアー機能が脆弱である→そのため皮膚からアレルギーの原因物質(ハウスダストやダニ、食べ物の破片など)が進入する→アレルギー反応がおこりさらにかゆくなる→さらに掻いて皮膚に小さな傷がついてしまう→そこからまたアレルギーの原因物質が侵入する→さらに痒くなる・・・
という悪循環に入ってしまう事があります。その結果全身の湿疹に至ってしまいます。
多くの患者さまはアトピー素因と呼ばれる以下のいずれかを持っています。
IgEというのはアレルギー反応の主役となるタンパク質です。
その他、診断にはHanifin&Rajkaの診断基準が用いられる事が多いです。
A:以下の基本項目を3つ以上有すること
1.掻痒(かゆみ)
2.典型的な皮疹の形態と分布成人では屈側の苔癬化幼小児では顔面および伸側の皮疹
3.慢性あるいは慢性再発性皮膚炎
4.アトピー(喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎)の既往または家族歴
B:さらに23個の小項目(割愛)のうちを3つ以上有すること
とされています。
乳児期(2歳未満)では、頭部や顔面(特に口の周り、耳)に湿疹ができ始める事が多いとされています。
そのほか、首や脇、肘、手首、足首などにしわができやすいところにも湿疹が後発します。
乳児期には、さまざまな皮膚のトラブルが見られるため、容易にアトピー性皮膚炎と診断するのは避けたほうがいいと考えています。乳児期のアトピー性皮膚炎の特徴として、耳たぶの基部に亀裂が見られる、おむつの当たる箇所はかえって湿疹が少ないなどの特徴があります。
幼小児期(2〜12才)では全体的に乾燥肌になり、額や眼周囲、頚部、肘の裏(肘窩)、膝の裏(膝窩)などに湿疹、搔き壊し、色素沈着が見られるようになります。
食物アレルギーが関与している事もあります。
補足)小児の場合は食物アレルギーが関与している場合がありますが、成人の場合食物アレルギーが関与していることはほとんどありません。(ただし、特定のものを食べて症状が悪化することが明らかな場合は、避けたほうがいいでしょう)
顔面〜頚部、肘の裏(肘窩)などに皮疹が好発します。手湿疹も多く見られ、ほかの部位が治っても手湿疹が残存する場合が多くあります。
血液検査にてアレルギー検査(RAST)や病勢評価のためのTARCを測定する事が可能です。
特に中等度以上の症状が長く続く患者様には採血によるアレルギー検査をお勧めしております。
アトピー性皮膚炎の患者様は、ハウスダストやダニに対するアレルギーをお持ちの方が多く、採血結果を見ながら、部屋の掃除、シーツの交換、布団干しなどを適切に行った結果、急によくなったという方も何人もおられます。
また、食物アレルギーが原因のアトピー性皮膚炎と信じ込んで、かなり厳格な食物制限を行っていた方が採血の結果、食物アレルギーはないことが判明し、自由な食生活に戻られた方もおられます。その方は適切なスキンケア、軟膏処置によりほぼ完治しました。そのように検査結果で「アレルギーではない」とわかることも、「何かのアレルギーである」と同じくらい意味を持つこともあります。なかなか通常の治療で反応しないアトピー性皮膚炎や慢性湿疹の患者様には、アレルギー検査を受けることをお勧めしたいと思います。
アトピー性皮膚炎の患者様は、なかなか治らないアトピーに困り、皮膚科に行ってもよくならない、一時的によくなるだけ、とお考えの方も多いのではないでしょうか?
またステロイドの副作用などが心配で治療がうまくいかなかったという話もよく伺います。しかし実際は、ほとんどのケースでアトピー性皮膚炎の治療はそれほど難しいものではなく、適切な生活指導、適切な難航処置があれば、ほとんど症状のない状態に2週間程度で持ち込む事が可能です。
そのために必要なのは、適切な強さの外用薬の処方、いつどの程度薬を使うかという知識、いつまで薬を使えばいいかといった基本的な知識だけなのですが、それらはどれ一つ欠乏しても治療は成功しないものなのです。
当院では、初診時、軟膏の塗布指導を丁寧に行い、「いつ軟膏を付ければいいか?」、「どれくらい軟膏を付ければいいか」、といった分かりにくい疑問にお答えしていきます。
当院では、初期には強力な治療によりなるべく素早く症状のない状態に持ち込み、さらになるべく再発がしないようないようにプロアクティブ療法など最新の治療を用いていきます。
受診時、中等度以上の患者様の場合は、最初に強力な治療を用いて速やかに症状を押さえ込みます(寛解導入)。寛解導入後、症状が落ち着いている場合は、保湿剤のみで経過観察を行います。もし、症状を繰り返すようだと、寛解維持期にはプロアクティブ療法(★)を行う場合があります。
(※)プロトピック軟膏はタクロリムスという免疫調整剤が入っており、アトピー性皮膚炎の患者様の湿疹の治療に使われております。
プロトピック軟膏には0.03%のものと0.1%のものがあり、前者はお子様にも使うことができます。
ステロイド外用薬と比較した場合の利点と弱点を箇条書きにしたいと思います。
・ステロイド外用薬と違い、皮膚が薄くなりにくい。
・皮膚の血管拡張を来しにくい。
・酒さ様皮膚炎を来しにくい。
・掻きこわしなどの傷のある部位には使えない。
・それほど効果が強くない。(ステロイドのランクでいうと、中間より少し強い程度と言われています。)
・効いてくるまでに少し時間がかかる。
・使用初期に熱感、ヒリヒリ感が出ることがある。
などがあります。
上記の利点、弱点を鑑みると、急性増悪している患者様には短期間ステロイドを投与し、ある程度落ち着けば、プロトピック軟膏に切り替えていく方法が合理的と考えます。
当院でも比較的落ち着いている状態(維持期)の患者様やプロアクティブ療法を行っている患者様にはプロトピック軟膏をお勧めすることが多いです。
特に顔はステロイド外用薬の副作用が出やすいので、プロトピック軟膏をご処方することが多くなります。
(★)プロアクティブ療法・・・プロアクティブとは「問題が発生してから対応するのでなく、問題が起こる前に率先して行動する、先を見越した行動をとること」とされています。
アトピー性皮膚炎の患者さまの湿疹病変を、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を用いて比較的短期間に抑え込むことは、以前から可能でした。ただ外用薬を止めるとすぐに再燃してしまうのが大きな問題でした。
湿疹病変が何度もすぐに再燃すると、「やはり良くならない」「治療しても意味がない」と思われてしまう患者さまもいらっしゃいました。そして治療を中断してしまう方もおられたようです。
そこで、再燃をできるだけ減らすように考えられた治療法がプロアクティブ療法です。具体的には、湿疹病変が良くなっても、すぐにステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を止めずに、週に1,2回、それらの外用薬を再燃しやすい部位につけていただく方法です。私は非常に優れた治療法と思います。というのも週に1,2回であれば、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬の副作用はほぼ無視できますし、患者さまのライフスタイルに合わせて外用を続けることができるからです(たとえば比較的時間の取れる日曜日のみステロイド外用薬を付けるなど治療法が可能になります)。
アトピー性皮膚炎の最重症例の患者様には、切り札としてネオーラルの内服を行うことが出来ます。
ネオーラルというのは免疫抑制剤の一つで、腎移植後の拒絶反応の抑制のために開発された薬ですが、近年、アトピー性皮膚炎の症状の改善、痒みの抑制に非常に高い効果を有していることが分かり、その治療の保険適応が認められました。
現在、アトピー性皮膚炎の治療の切り札となっており、アトピー性皮膚炎に伴う皮膚炎、痒みを速やかに消退させます。特にステロイドの外用が効きにくい、痒疹というイボ状の痒い病変がたくさん出来てしまっている方などに特にお勧めしたい治療です。
以前はアトピー性皮膚炎は良くならない病気と思われていましたが、現在では完全とはいえなくても治癒に近い状態を維持することが出来るということがわかってきました。
以下は、典型的な例であり、患者さまのご都合、症状に合わせて柔軟に対応します。
最重症と診断されたアトピー性皮膚炎の患者様はネオーラルを1日2回、朝夕食後内服します。
まず診察を行いネオーラル治療の適応かどうか判断します.
ネオーラルの適応と判断された場合、血液検査、血圧の測定を行い、ネオーラルの治療を行えるかどうかを判断します.
ネオーラルの内服を行います。ご自宅で毎日血圧測定を行っていただきます。
1ヶ月以上内服する場合は、一ヶ月後に改めて、血液検査、血圧の測定を行います。
2ヶ月内服を行った場合は、一旦ネオーラルの内服を中止します.
アトピー性皮膚炎の発症には遺伝的な要因が関与していますので、完全に治す事は難しいかもしれませんが、40歳以降に自然軽快してくるとされています。
ステロイド外用薬で色素沈着が起こる事はないとされています。湿疹に伴う炎症後色素沈着をステロイド外用薬により色素沈着と間違えてしまう事があるようです。むしろステロイド外用薬の副作用としては、色素脱(色が白くなってしまう事)の方が問題となります。
ありません。皮膚がごわごわしてくるのは慢性湿疹の症状の苔癬化と呼ばれるものです。ステロイド外用薬はその苔癬化を押さえる働きがあります。
皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなる事)、毛細血管拡張、毛嚢炎(おでき)、顔面では酒さ様皮膚炎(灼熱感を伴う赤み、毛細血管拡張、膿疱)などが挙げられます。
ときに細菌感染症(毛のう炎,伝染性膿痂疹等)、皮膚の真菌症(カンジダ症、白癬等)ウイルス感染症があらわれることがあります。
小児ではまれに多毛症を来すことがあります。
眼瞼に強めのステロイドを塗り続けた場合は緑内障、白内障の原因となることがあります。
小児に対して強力な外用ステロイドを長期使用した場合は、色素脱失を起こすことがあります。
またごくまれにステロイド外用自体が体に合わなくて、接触皮膚炎(かぶれ)を起こすことがあります。
それらの副作用の大部分はステロイドを中止することにより、元に戻ります。
ステロイド外用薬による副作用はそれほど多いものではなく最も強いデルモベート軟膏・クリームでも、皮膚萎縮〔軟膏1.0%、クリーム0.7%〕、毛のう炎・〔軟膏0.6%、クリーム0.4%〕、毛細血管拡張〔軟膏0.5%、クリーム0.6%〕と報告されています。
きちんと皮膚科医専門医によってフォローされた場合、副作用はそれほど頻繁に起こるもではありません。
議論の分かれるところですが、ステロイド外用薬を自己判断で急にやめると症状が急速に悪化するという事はよく経験されます
必ず弱いステロイド外用薬に切り替えてから中止する、もしくは使う量を減らしてから中止するようにさせていただいております。
Aランクの弱いステロイド外用薬であれば安全に使用する事が可能です。
一時そういった噂が広がった事は事実ですが、現時点ではタクロリムス外用薬を適切に使用した場合、リンパ腫や皮膚がんの発生リスクは、使用しなかった場合と比べても上昇しないという事がわかっています。
タクロリムス自体に皮膚ガンの発生する実際的な影響ははっきりしませんが、念のため日光浴,海水浴,日焼けサロンは避けていただきたいと考えております。
2才未満の患者様はタクロリムス外用薬を使う事はできません。2才〜15才の患者様はプロトピック小児用(タクロリムス0.03%配合)を用いる事ができます。
私も以前、アトピー性皮膚炎を煩っていたのでお気持ちは大いに分かります。アトピー性皮膚炎は寛解導入後に適切な維持療法を行う事で再発を防ぐことが可能と考えています。近年、プロアクティブ療法が提唱されて以来、ますます維持療法が進化していますので、あきらめずに治療を行う事をお勧めしたいと思います。
プロアクティブ療法とは、アトピー性皮膚炎の再発を防ぐために考案された治療法で、いったん湿疹が治った後もしばらくステロイド、もしくはタクロリムス外用薬を週2回ほど外用を続ける、という治療法です。
湿疹があればきちんと汚れを洗い落とす事が必要となりますので、入浴時石けんを使った方がいいと考えております。
お子様のアトピー性皮膚炎では食物アレルギーが関与している事がありますので、症状が高度な場合は一度食物アレルギーの検査を受ける事をお勧めしたいと思います。また、なるべく部屋を清潔にし、ほこり、ダニが少ない環境を作ることが肝心です。また衣類にも注意し、肌に直接接触するものはコットンのものを選び、洗剤のすすぎ残しがないか十分に注意していただきたいと思います。
大人のアトピー性皮膚炎では食物アレルギーが関与している事は少ないのですが、それ以外はお子様のアトピー性皮膚炎の注意事項とほぼ同じです。また大人のアトピー性皮膚炎の場合はストレスや過労が関与している事が多いですので、なるべくストレス、過労の少ない生活を心がけていただきたいと思います。
約2週間~2ヶ月となります.その後は再び外用療法を中心とした治療を行っていただきます。
ネオーラルは高価な薬ですので、保険が3割負担の方で、2週間あたり6000円~8000円程度かかります。さらに採血に伴う費用も発生します.
ネオーラル治療は16歳以上の方が対象になります.
残念ながら安全性が確立しておらず、ネオーラル治療を行うことは出来ません。
国内の成人のアトピー性皮膚炎患者さんを対象とした臨床試験において発現した主な副作用は、毛包炎21例(10.2%)、血中トリグリセリド増加18例(8.8%)、血中ビリルビン増加18例(8.8%)、鼻咽頭炎11例(5.4%)等です。その他、血圧上昇や腎機能や肝機能などの副作用も報告されていますが、ほとんどは、服用量を減らしたり中止することで元に戻ります。また、アトピー性皮膚炎に対して服用する場合は、短期間で服用を中止しますので、高度の障害を起こすことはほとんどありません。
ネオーラルは中止してもリババウンド現象が起こらないのが良いところです。
グレープフルーツジュースの摂取を避けていただきます.その他、薬の飲み合わせが良くないものもありますので、事前に内服薬を医師にお伝えください。