今月の日本皮膚科学会雑誌に慢性痒疹診療ガイドラインが掲載されていますので紹介させていただきたいと思います。
同ガイドラインでは、慢性痒疹を結節性痒疹と多形慢性痒疹に分類しております。当院でもたくさんの結節性痒疹、多形慢性痒疹の患者様がご来院されています。
同ガイドラインでは、「掻痒が特に強い例、皮疹が広範囲に及ぶ例、治療に抵抗性がある例、きわめて難治で慢性に経過する例では、内科的疾患から皮疹が出ている可能性を考え、全身検索を勧める、詳細な問診、適切な血液検査、画像検査などを行う」と明記されております。
これまでは治療抵抗性でかつ重度の慢性痒疹の患者様に対しては全身検索を行う、というのが標準的と考えられていたように思うのですが、それから一歩進んで、重度の慢性痒疹の患者様には、初めから全身検索を行うように推奨されています。
高尿酸血症、糖尿病、甲状腺異常、血液疾患、腎肝機能障害などに伴い慢性痒疹が出現することは有名事実なのですが、どのタイミングで採血を行うかは、かなり微妙なところで、私も悩むことが多かったのです。今後は、重度の慢性痒疹の患者様は、初診時から採血をする必要があるかもしれません。健康診断のデータをお持ちなら、持ってきていただいたほうが便利だと思います。
治療については、後日紹介したいと思います。
アレルギーの原因になりやすい物質があることがわかっていますが、なぜアレルギーになりやすい物質があるのかについては、恥ずかしながらあまり意識したことがなかったのですが、面白い文献があったので報告しておきます。(実験医学Vol.27 No.20 アレルギー研究の最前線 高井先生)
ダニの死骸や排泄物はアレルギーの原因として最重要のものの一つですが、それらは単に人に接する機会が多いために、アレルギーの原因なりやすい、というわけではないようです。それらのアレルギー物質はそれ自体、上皮細胞同士の結合組織を破壊し、皮膚のバリア機能を弱める働きがあるようです。さらにそれらは、角化細胞を刺激し、炎症性サイトカインの産生を促すなどし、免疫系をかく乱したり、好酸球を活性化しアレルギーを起こしやすくする働きもあります。
思えば、人の皮膚はありとあらゆる物質と接しており(細菌、真菌、ウイルス、汗、水、食材、花粉、線維、金属、ゴム、クリーム、香料、香水、石鹸、空気、薬剤、塗料など)、その中で、構造上アレルギーの原因となりやすいものがあることは知られていますが、それにはそれなりの理由があると考えたほうがいいかもしれません。その理由はそれぞれの物質によって異なるので、いずれまたご紹介したいと思います。
目の下のクマで悩まれている方は非常に多いようです。
クマは、色素沈着による場合と、皮膚のたるみに伴って影ができている場合、その両方の場合があります。
すこし皮膚を引っ張り、影がない状態を作り、それでもクマがある場合は色素沈着で、そうでない場合は影によるクマということになります。
色素沈着の場合は、炎症後色素沈着である場合と、肝斑の類縁疾患である場合があります(後者は日本人には稀ですが)。炎症後色素沈着は擦過による慢性的な刺激によっておこっていることがほとんどなので、擦過をやめ、きちんとスキンケアすることで徐々に良くなっていきます。(少しくどいようですが、眼周囲を擦る癖のある方は非常に多いのです。)肝斑の類縁疾患である場合にはトラネキサム酸の内服と、保存療法を行います。
皮膚のたるみに伴って影ができている場合は、下眼瞼の余っている皮膚を切り取るか、頬骨直上にヒアルロン酸を注入し、皮膚を膨らませる治療を行います。
頬骨直上にヒアルロン酸を注入し、そこにボリュームを持たせれば顔全体が若々しくなりますし、侵襲も非常に少なく、簡便なので(数分で治療が終わります)、ヒアルロン酸による治療の機会が増えています。
症例写真を少し公開していますので、もし宜しければご参照ください。
https://mitakahifu.com/photo/
クマについて詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
ストレスがホルモンや白血球の機能に影響を与え、皮膚に影響を与えるということは以前ブログでも紹介しました。しかし臨床的に最も問題になるのはストレスに伴う擦過行動かも知れません。
ストレス下に置かれていると些細な痒みが気になったりします。私も勤務医時代に当直時に蚊に刺されただけでまともに眠れなくなった経験があります。当直時というストレス下において蚊に刺された程度の痒みでもすごく気になってしまいます。また暇な時間に少しでも眠らなければいけないというプレッシャーのもとでは、睡眠を妨げる痒みがイライラの原因になってしまい、激しく掻いてしまいます。掻いてしまえば表皮細胞からたくさんのサイトカイン(炎症細胞を呼び寄せるなどの機能を持つ伝達物質)が放出され、また神経からサブスタンスP(肥満細胞などに作用し、ヒスタミンなどの痒み物質の遊離を促す)が放出されることにより、痒みが一層ひどくなってしまいます。また掻くことで、角質が痛み、さらに外からの刺激を受けやすくなってしまいます。結果、痒みが増し、イライラの原因になって、さらに掻いてしまうしまうという悪循環に至ってしまいます。そして、ゆっくり寝ることができなければ、翌日さらにストレスが増してしまいます。私もその当直の翌日薬を付けられるまでの間に何度も掻いてしました。
このような状況はそれほど特殊なものでもなく、かなり多くの患者様が同様のストレスと痒みの伴う皮膚疾患(慢性湿疹、アトピー性皮膚炎、結節性痒疹、慢性単純性苔癬)の悪循環に悩まれているようです。その場合は、すこしでもゆっくりとお休みできるように、軽い睡眠導入剤などを短期間処方されていただくと、症状が著効することがあります。
同時に治療することが困難な合併症例を経験することがあります。
例えば、ニキビと湿疹の合併や、水いぼと湿疹の合併例などです。
ニキビと湿疹が同時に存在することはしばしば見かけるのですが、ニキビの治療のためディフェリンなどを使うと刺激で湿疹が増悪する可能性がありますし、湿疹の治療のためステロイド剤を使うとニキビが悪化する可能性があります。
その場合は、どちらから治療すればいいかというと、断然、湿疹の治療から先に行うべきと考えています。なぜなら、湿疹があれば皮膚が乾燥し、さらに掻いたり擦ることによりニキビが悪化している可能性が高いからです。逆にニキビが湿疹を悪化させている可能性はほとんどありません。そのため、多少ニキビが悪化するリスクを考慮したうえで、ステロイド外用による湿疹の治療を先行します。短期間のステロイド外用であれば、それほどニキビを増悪させることもありません。
水いぼと湿疹が合併している場合なども同様です。湿疹を掻き壊し、その小さな傷から水いぼウイルスが侵入し、水いぼを広げてしまっている可能性が大いにあります。そのため、やはりごく短期間ステロイド外用薬を使い、湿疹を治してしまうようにしています。
水いぼにステロイド外用薬を使えば、皮膚の免疫が低下し、水いぼが広がってしまうのではないか?と心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、短期間であれば皮膚免疫が低下することもありません。むしろ湿疹を放置したほうが皮膚のバリア機能が低下し、水いぼウイルスなどに対する免疫が低下しているのではないかと考えています。湿疹の治療を後回しにした結果、湿疹とともに水いぼが爆発的に増えてしまい、困って来院される方をしばしば診察いたしますが、やはり湿疹を先に治療し、皮膚のバリア機能を回復させるべきなのです。
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