無事、2011年の診療を終了することができました。本当にありがとうございました。
とはいえ、まだ全快されていない患者様も多く、手放しで喜ぶことができない気持ちもあります。お変わりなく、穏やかに年末年始をお過ごしいただけますように、心からお祈りしたいと思います。
今年は慣れない点が多く、患者様にご迷惑をおかけしたことも多かったと存じますが、来年はさらに患者様に期待にお答えできるように全力を尽くす所存ですので、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
手湿疹はこの季節、最も多く診察する機会の多い疾患の一つですが、本邦の医学書ではあまり詳しく書かれていない傾向にあり、「ステロイドを塗布しましょう、保湿剤を頻回に使いましょう、手を洗いすぎないようにしましょう」といったことしか書かれていないことが多いようですが、もう少し詳しくみたほうがいいのではないか、と感じることがあるので少しコメントしておきたいと思います。
米国の医学書を見ると手湿疹は
Irritant contact dermatitis(刺激性接触皮膚炎による手湿疹、いわゆる主婦湿疹もここに含まれます)
Atopic hand dermatitis(大人のアトピー性皮膚炎の一症状としての手湿疹)
Allergic contact dermatitis(アレルギー性接触皮膚炎)
Recurrent focal palmar peeling( 剥脱性皮膚炎)
Lichen simplex chronicus(慢性的に掻くことにより発症している)
Hyperkeratotic eczme(角化の強いタイプ)
Fingertip eczema(湿疹病変が指先に限局しているタイプ。アレルギーが強く疑われる)
Pompholyx(汗疱。日本では手湿疹とは別の疾患概念として扱われることが多い)
Id reaction(日本でいう感作性皮膚炎や白癬疹に伴う症状)
に分類されています。
それぞれ臨床症状、管理方法、臨床経過、鑑別疾患が微妙に異なりますので、簡単に「手湿疹」で済ませずに、詳しくみるように心がけたいと思います。
また日本皮膚科学会雑誌から円形脱毛症の病態update(伊藤泰介先生)の内容を簡単に紹介しておきます。
成長期毛の毛包は”immune privilege”と呼ばれる、免疫抑制状態が維持されており、その”privilege”(特権)が破綻することにより、円形脱毛症が起こってくるのかもしれないという話です。
円形脱毛症は、自己の免疫細胞が誤って毛包を攻撃してしまうことにより発症する可能性が高いのですが、そもそも成長期の毛包は免疫細胞の攻撃を受けないように保護しているメカニズムがあり、そのメカニズムが破綻することで円形脱毛症が発症しているのかもしれないということです。
免疫というメカニズムは炎症等の免疫反応を起こすこと(例えば、外敵に対する攻撃性)のみに注意が向いてしまいますが、同程度に炎症を起こさない、免疫反応が暴発しないよう抑制し、コントロールしている複雑な機能があり、その破綻によりさまざまな皮膚疾患が起こってきているとうことが改めて認識させられました。
よく患者様が円形脱毛症などを患われると、「疲れやストレスで免疫が弱ってしまったから、この病気になってしまった」と考える方がおられますが、正確には「疲れやストレスで免疫反応を抑制する機能が低下してしまったから、この病気になってしまった」といったほうが正確なのかもしれません。
掌蹠膿疱症についての最近の知見が学会誌に載っているので引き続きご紹介しておきます。(掌蹠膿疱症研究における最近の話題、村上正基先生)
まとめますと
・掌蹠膿疱症はエクリン汗腺(汗を分泌する線)で起こっている可能性が高い。
・エクリン汗腺におけるニコチン性アセチルコリン受容体の発現パターンが、掌蹠膿疱症の患者様と、健常人とは異なっている。
ということが書かれております。
掌蹠膿疱症と喫煙との関係はかなり以前から指摘されており、それがニコチン性アセチルコリン受容体の発現パターンと関係があるのかどうかはこの記事だけでは判断できませんが、掌蹠膿疱症の患者様で喫煙されている方は、禁煙を心掛けたほうがよさそうだ、というのはこれまでと変わりません。
私の患者様で、ご家族にヘビースモーカーの方がいらっしゃり、その方に禁煙をしていただいたら、掌蹠膿疱症がよくなったという方もおられました。
日本皮膚科学会誌が送られてきましたが、年末の臨時増刊号で今年の総会のまとめとなっているので、患者様にとって有益と思われるところを掻い摘んで紹介していきたいと思います。
接触皮膚炎(かぶれ)は皮膚科医が診療する頻度の高い疾患で、原因がはっきりとわかる場合(ぎんなんを拾ってから手がかゆくなった、ネックレスをするようになってから首に発疹ができた、ベルトのバックルがあたるところに重度の皮膚炎がある、毛染めをしてから逃避に湿疹ができた、など)は容易に原因物質を同定することができますが、そうでない場合も多々あります。
原因がはっきりわからない場合は、「湿疹」と診断され、漫然とステロイド外用薬が使われていることがあり注意が必要です。
高山かおる先生による「接触皮膚炎ガイドラインの内容と使い方」では、経過長期の場合は、短期的な場合と比べて原因を特定することが困難なことがある記載されております。
シャンプー、リンスの洗髪剤、職業性のもの、ニッケルなどの金属、目の周囲の場合はビューラーに含まれるニッケル、化粧品、点眼薬、そのほか傷に対する消毒薬、抗生物質含有軟膏などが原因となることがあるとされています。シャンプー、リンスの接触皮膚炎は、頭皮よりも頸部、前頭部などの生え際、前胸部などの洗髪剤が濃く流れ落ちる部位に湿疹病変を呈します。
以下、私の意見ですが、この中で、特に診断が難しいのは、シャンプー、リンスの洗髪剤による接触皮膚炎です。
一般的に接触皮膚炎の確定診断は、パッチテストで行います。パッチテストというのは、原因として疑われる物質を、絆創膏のようなものに塗布し、上腕に48時間貼り付けておき、そこにアレルギー反応が出るかどうか調べる検査です。しかし皮膚炎が起こっているからといって簡単にその物質によるアレルギーと診断することはできません。例えば、シャンプーやリンスはそのままパッチテストをしても、多くの方で刺激反応が出て皮膚炎を引き起こしてしまうでしょう。シャンプーやリンスは洗い流して使うもので、48時間も皮膚に残っていることが想定されていないからです。それは刺激性接触皮膚炎で、アレルギー性接触皮膚炎とは厳密に区別しなければなりません(そのあたりのことを詳しく知りたい方は、以前のブログをご参照くださいhttps://mitakahifu.com/contact-dermatitis1/ )。シャンプーやリンスなどの場合は10倍、100倍に希釈してからパッチテストを行わなければなりません。さらに陽性と出た場合でも慎重に経過観察し、刺激性接触皮膚炎ではないか見極めなくてはなりません。
化粧品によるかぶれについては(化粧品皮膚炎、関東裕美先生著)でまとめられております。
そこでは化粧品皮膚炎というのは化粧品による刺激性、アレルギー性接触皮膚炎の両方をさしているようです。その論文の中では、ある化粧品によるアレルギー性接触皮膚炎と患者様が思い込んでいる場合でも、実際は化粧品では反応せず、洗浄剤による刺激反応のみがみられることが多い、と記載されています。
まさにこれは当院でもよく経験することで、「顔に湿疹ができたから、化粧品のせいではないか?」とおっしゃる患者様にパッチテストを施行したところ、全く化粧品では反応しないということは頻繁にあります。その場合は、洗浄剤による刺激反応や、洗いすぎによる皮膚のバリア機能の低下を考えなければなりません。
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